ドラッグストアは植物園!? 医薬品と薬草との深〜い関係
「薬草」という言葉から、何を連想するだろうか。漢方薬、民間療法、健康食品など、「医学の傍流」「ちょっと胡散臭い世界」という印象を持っている人も多いかもしれない。
しかし実は、我々が今使っている医薬品や化粧品の有効成分の中には、植物から抽出・精製された物質が数多く含まれている。錠剤などの形に加工されているのでわかりにくいかもしれないが、今でも我々は生理活性物質を含む植物、つまり「薬草」の加工品を使っているのだ。
この連載では、ドラッグストアで一般的に売られている一般用医薬品(OTC薬という)に使われている、さまざまな薬草由来の成分を紹介しよう。またそれらの薬草が栽培され、医薬品に加工されるまでの一般的な流れについても解説する。
これを読んだら、ドラッグストアに行って医薬品の成分表示を眺めてみてほしい。きっと様々な薬草の並ぶ「植物園」のように見えることだろう。
医薬品には様々な薬草が使われている
植物に含まれる二次代謝産物、特に「アルカロイド」と総称される生理活性物質は、有史以前から人類によって治療や狩猟、祭祀などに用いられてきた。このような生理活性物質を多く含む植物は「薬草」として利用や栽培が研究され、漢方薬、西洋では魔女の技術、大航海時代以降の植物学などと結びついてきた歴史がある。
「薬草」という言葉は、時に民間療法や迷信のイメージを持たれる場合もあるが、現代の医療とも地続きになっている技術だ。そして、現代に生きる薬草を最も手軽に見られる場所が、ドラッグストアなのだ。
ドラッグストアの医薬品コーナーを訪れ、パッケージを手に取って成分表示を眺めると、多種多様な成分名が並んでいる。タンニン酸ベルベリン、グリチルリチン酸二カリウム、ベラドンナ総アルカロイド、センノシド、カプサイシン、などなど。カタカナだらけの名前でとっつきにくいかもしらないが、実はここに挙げた成分は、いずれも薬草から抽出された物質だ。
たとえばグリチルリチン酸二カリウムは、漢方にも使われる薬草「甘草」から作られる。抗炎症作用があるため、医薬品や化粧品に使われている。
このように、薬草から特定の薬効成分が抽出精製され、医薬品に姿を変えてドラッグストアに並んでいるのだ。そう考えると、ドラッグストアの医薬品棚が、薬草の並ぶ花壇のように見えてくるんじゃないか。
薬草が医薬品になるまでの流れ
薬草から医薬品が作られる一般的な流れは、おおよそ以下の通りだ。
まず、薬草の生育に適した気候や土壌の土地で、栽培がおこなわれる。医薬品原料になる薬草は、一般的な農作物よりも農薬残留規格などが厳しい場合が多く、信頼できる栽培団体の存在が欠かせない。農場で栽培された薬草は、薬効成分の含量がなるべく高くなる時期に収穫され、乾燥後に原薬メーカーへ納品される。
原薬メーカーとは、医薬品の薬効成分を製造し、製薬会社へ販売する企業のこと。医薬品のパッケージに社名は載らないが、医薬品が人体に作用する重要な成分を取り扱っているのだ。原薬メーカーでは、GMP(適正製造基準)に準拠して薬効成分を抽出精製して原薬を製造し、原薬卸などを通して製薬会社へ販売している。
製薬会社では、原薬メーカーから購入した原薬に賦形剤や添加剤を加え、錠剤や顆粒剤などの形に加工する。このような製剤工程を経て、ようやく人々が摂取する医薬品の形になるのだ。完成した医薬品は品質検査を受けてから、製薬会社のMR(医薬品情報担当者)または医薬品卸を通して、病院やドラッグストアへ販売される。
医薬品を飲むとき、「薬草を利用している」と意識する人はほとんどいないだろう。しかし成分表示に注意してみると、化学合成された成分だけでなく、薬草から抽出された成分が意外と多いことに驚かされるはずだ。身近な医薬品に含まれる成分がどのような薬草から抽出精製されたものなのか調べてみると、カタカナの物質名が並ぶ成分表示が、薬草のひしめく植物園のように見えるだろう。
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