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食べ物の「おいしさ/まずさ」は客観的に数値化・評価できるのか?

九州大学の研究チームが「味とにおいに関わる成分を同時検出可能な分析技術」を開発したと発表した(2022年1月25日)。食品風味・品質・おいしさの客観的な理解・評価に役立つことが期待されているという。今回はこの新技術の発表に着想を得て、「おいしさとはなんなのか?」「おいしさを数値で客観評価することは可能なのか?」について、農業AI研究者でもあるflasko編集部・菊池の考察をお届けしよう。

※本稿は以下のプレスリリースについて、ある研究者がその知見と主観にもとづいて考察や妄想を巡らせる内容となっております。そのため、記載されている内容が一般的に認められている学説とは異なる場合や、根拠がない可能性があります。情報の取り扱いには十分ご留意ください。

九州大学の研究チームが「人間が飲食時に感じる美味しさを、味とにおいの両面から評価することが可能な技術」を発表した。人間の味覚を科学的に分析・センシングできることは既に知られているが、今回発表された技術を用いることで、特別な前処理を必要とせず、食品をそのまま分析して味とにおいを同時に評価することができるという。

これはまさに人間が食事をするときに口の中で起こっていることそのものであり、食品風味・品質・おいしさの客観的評価に活用できるものと期待される。

食べ物が「おいしい」かどうかを客観的に評価できるのだろうか?

……と、ここで筆者が気になったことがある。ある食べ物の「おいしさ」を客観的に数字で評価できるのであれば、それを食べた人全員が同じように(同じ程度に)「おいしい」と感じるはずだ。しかし実際には、トマトが好きな人もいれば嫌いな人もいる。つまり「まったく同じ味・においの食べ物を用意しても、人によっておいしい/まずいと感じる程度が異なる」ということが起こっているのである。

つまり、そこには主観が介在する。この主観を排除して、真に客観的な「おいしさ」の評価を行うことは果たして可能なのだろうか?

味覚や嗅覚の強さは人それぞれ

食べ物の味とにおいについて、少しだけ科学的に掘り下げてみよう。そもそも人間が味として味覚で感じられるのは、水に溶ける性質を持っている化学物質であり、においとして嗅覚で感じられるのは、空気中に気体として放出される化学物質である。そういった化学物質が、舌や鼻に存在している生体センサー(=受容体)に結合して、電気的なシグナルとして脳に伝達され、味やにおいの種類や強さとして認識されることになる。

しかし「あの人は鼻が利く」と言われることがあるように、味覚や嗅覚の強さ(=生体センサーの敏感さ)は、当然人によって異なっている。つまり、全く同じ種類と量の食べ物(の中に含まれる化学物質)が与えられたとしても、その味とにおいについて脳に伝えられる電気的シグナルの強さが異なってくる。これが「おいしさ」の判断に主観が入り込む要因の一つと考えられる。

個人的経験から「まずさ」を学習することがある

もう一つ、おいしさの判断に主観が入り込む要因として挙げられるのが「味覚嫌悪学習」だ。これはあるものを食べた後に腹痛や下痢などの体調不良を経験すると、直前に食べたものの味に対して嫌悪を獲得することを指し、生物にとって重要な生存戦略の一つとなっている。

実は、筆者も幼少期にお好み焼きを食べた後にものすごく気分が悪くなったことがあり、そこから15年くらいお好み焼きを全く食べられなくなったことがある。これは少し極端な例ではあるが、子どもはしばしば体調を崩すものであるし、「あるものを食べること」と「その後に起こった体調不良」を結びつけて、自分にとっての嫌悪(つまり主観)を獲得してしまうことは容易に起こり得るのである。

ある人にとっての「おいしさ」の評価には、その人固有の経験も加味する必要がある

本稿では九州大学の研究チームによる新技術の発表に触発され、「おいしさ」を真に客観的に評価することは可能なのか、その場合、どういった要素を考慮する必要があるのか」について、私なりに考察を巡らせてみた。その結果、特に味覚嫌悪学習を考慮した評価というのはなかなか困難だろうというのが私なりの結論である。(そこまで考慮して何をしたいのか?というのはさておき)

私の考察はさておき、人間の五感を分析・センシング技術を使って再現しようという試みは非常に興味深いものであるし、特に味覚や嗅覚は視覚や聴覚に比べてまだまだ発展の余地の大きい領域であると感じている。今後、より簡便で高精度な味覚・嗅覚センシング技術や、味・においとさらには個人の好みまでも考慮した「おいしさ分析技術」が開発されれば、「このお店であなたの好みに最もマッチするメニューはこれです」とリコメンドされる、なんて未来が来るのかもしれない。

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