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A-Co-Labo研究者の履歴書

腸内細菌の研究を通じ誰もが健康で幸せな世界を目指す菅沼名津季【A-Co-Labo研究者の履歴書 #10】

本シリーズ【A-Co-Labo研究者の履歴書】では、flaskoのサポーターであり、研究知のシェアリングサービスを行う株式会社A-Co-Laboに登録している多様なパートナー研究者たちが、自身の研究内容とともに、研究者としての歩みや考え方を伝えていきます。

今回は、腸内細菌と予防医学の研究を通して、誰もが健康で幸せになれる世界の実現を目指している菅沼名津季さんです。

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菅沼 名津季

すがぬま なつき

国立名古屋大学創薬科学研究科博士前期課程入学・修了。
江崎グリコ株式会社に入社し、健康科学研究所で腸内細菌の研究に従事。
その後、オンライン診察を行うネクストイノベーション株式会社で新規事業部で働く傍ら、株式会社bactericoを創業。現在、慶應義塾大学薬学部の助教も務める(2022年3月時点)。

世界中の人を健康に幸せにするための研究

A-Co-Laboパートナー研究者の菅沼名津季(すがぬま・なつき)です。腸内細菌の研究を行っています。

私は小さな頃から猪突猛進、好奇心が旺盛な子供でした。一時期アリの巣が気になったときは、「アリの巣はどんな構造なんだろう? どうしたらアリは引っ越すんだろう?」なんてことを思って、石をおいたり、チョコレートや唐辛子をあげたりと、毎週毎週、飽きもせずに観察していました。

そんな私が研究者を目指きっかけになったのは高校生のとき。みなさんも進路に迷った覚えがあるのではないでしょうか? 私も例外ではなく迷っていました。これというものもなかったので、なんとなく人の役に立ちそうなお医者さんになろうかな、なんてことを思いつつ勉強に励んでいました。

お医者さんってどんな仕事をしているのか気になって職場体験に行きました。そのときに、40代の男性の方が亡くなった病室で、奥さんと娘さんが大泣きしている現場に出会ったのです。

その光景に大きな衝撃を受けました。

病気の治療も大事だけれど、その前に病気を予防することの方が大事なのではないか。生涯みんなが健康で寿命を迎えることができれば、こんな風に悲しむ人を減らせるんじゃないか。現状を変えるためには予防医学を学んで、その成果を社会に広げていく必要がある。そう考えて、研究者の道に進みました。

腸内細菌との運命の出会い

実は最初から腸内細菌の研究を行っていたわけではありません。予防医学の研究者になろう!と思って最初に取り組んだのは、遺伝子の研究でした。

高校のころに、大学で研究できるプログラムに参加したこともある私は、病気のリスクがある遺伝子を組み換えてリスクがないものにできれば病気を予防できるのではないかと考え、遺伝子学が学べる学部に進学しました。

その後、遺伝学を学ぶ中で、病気になるリスクのある遺伝子を持っていたとしても必ずしも病気になるわけではないこと、遺伝子より生活習慣のほうが病気のリスクを上昇させる場合もあることを知りました。

ということは、遺伝子を組み換えるよりも日々の生活習慣を整えることが大事なのではないか。そう思った私は、私達の体をつくる食から予防をしようと思いたちました。

私は「おいしさと健康」を経営理念においていた江崎グリコ株式会社に入社し、健康科学研究所に配属されました。そしてそこで、腸内細菌との運命の出会いを果たしたのです。

当時、腸内細菌がうつ病、アレルギー、自閉症、ガンなど、全身の様々な疾患と関わっていると言われ始めていました。でもそれを知った私は、最初は腸がそんなに大事だとは思えず、「腸を整えれば全身の病気が予防できることなんてあるんだろうか?」と疑問でした。

しかし実際に研究を進めれば進めるほど、「腸内細菌は本当に全身の疾患と関わっているんだ!」と確信を得られるようになりました。「世界中の人を健康に幸せにする」という夢を叶える方法が見つかったのです。

個別化予防を追求するため独立の道を選ぶ

一体何を食べたらヒトは健康になるんだろうか。どんな腸内細菌の状態であれば、ヒトは病気にならないのだろうか。そんなことを考えつつ研究していると、ある食材がAさんの腸内環境にはプラスに働くが、Bさんの腸内環境にはマイナスに働くことがある、つまり人によって“合う食事”は異なるということがわかってきました。

そうであれば、世界中の人を健康に幸せにするには、個々に合ったものを届けなければならない。1億人いたら遺伝子も1億パターンあるように、腸内細菌も人の数だけパターンがある。だったら遺伝子レベルで異なるそれぞれの腸内細菌に合ったものを届けたい。そう考えた私は「個別化予防」を研究テーマに掲げることにしました。

しかし「1つの商品を沢山の人に販売する」という企業の目標と、「ひとりひとりに合ったものを届ける」という自身の目標とでは、方向性が異なります。そこで私は思い切って起業して、個別化予防に全力で取り組むことにしたのです。

正直、会社を辞める瞬間は、怖くて怖くてたまりませんでした。辞めたらどうなってしまうんだろう…… 生きていけるんだろうか……と不安でいっぱいでした。しかし夢を叶えるためにはそうも言ってられません。今日もまた世界のどこかで病気になって苦しんでいる人がいるのだから、一刻も早く走り出す必要があるのだ。そんな決意を胸に、私は大好きだった会社を後にしました。

そうして起業し、実際に走り始めると、思いもよらなかった多くのハードルが立ち現れました。研究成果は出るのか、出たとしても、それをどうやって社会実装させればいいのか。そもそも研究しかやってこなかった私にとって、事業計画を書いたり、マーケティングもサービス開発もファイナンスもやりつつ、会社のホームページまで自分で作らなければいけないなんて……。「無理だ」とめげそうになることもたくさんありました。

でも、その度にたくさんの方に助けていただき、なんとか起業して、研究と両立させながらここまで進んで来ることができました。

研究者として実現させたい2つの夢

私がこれから研究者として実現させたいことは2つあります。

1つ目は「研究成果を社会実装させること」です。

ひとりひとりの腸内環境は全く違います。ヒトの腸にはおよそ1000種類、40兆個にも及ぶ腸内細菌が生息してると言われていますが、そんな腸内細菌は、お母さんから子どもへと受け継がれたものです。近年では妊婦さんの腸内環境が、生まれてくる赤ちゃんの健康に影響することもわかってきています。個別化予防の中でも、今はとくに妊婦さんに注力して、検査や個別栄養指導のサービスを届けています。

実は、研究者の中で知られていることが民間に広く知れ渡るまでには10年から20年もの歳月がかかるとされています。しかも、せっかくの研究成果が知られることなく埋もれていってしまうことも多いのです。

研究者が自ら会社を立てて、研究成果を早く正しく多くの人に届けようとしても、上手くいった事例は多くありません。だからこそ私はそこにチャレンジして、世界中の人を健康に幸せにするという夢を叶えたいのです。

そして私が実現させたいことの2つ目は「研究者がチャレンジできる世界をつくること」です。

あるとき学生さんからこんな相談を受けました。有名大学の医学部の女性でした。

「実は起業したいと思っている。でも研究も続けたいという思いもある。その2つだけでも難しいとわかっているけど、結婚もしたいし、できれば子供もほしい。でも起業して研究もして出産もして、なんて人は見たことない。ベンチャー起業の社長が育休を1週間取ったことでニュース記事になるような今の世界で、全てを両立させるなんて無謀だということは頭ではわかっている。どれかを捨てなければならないのはわかっている。でも、どうしても全部諦められない……」

聞いていてとても苦しくなりました。

私の夢が成功するかどうかはわかりません。ただ、上記すべてを叶えるためのチャレンジはしていきたいと思っています。「この人でもできてるんだから、きっと私もできるはず。」そう思って、みなさんが自分のやりたいことを諦めずにチャレンジする世界をつくること、それが研究者としての私の願いです。

この記事を最後まで読んでいただきありがとうございます。 皆さんと実際にお会いできることを願っております。少しでも共感いただけたらぜひ応援いただけると嬉しいです。

<A-Co-Laboについて>

株式会社A-Co-Laboには、現在約100名のパートナー研究者が登録。それら研究者の持つ研究知(研究者のもつ知識や知恵。研究内容だけでなく、課題発見能力や課題解決能力なども含む)を企業の研究開発はもちろん、新規事業や様々な課題の解決に役立てています。

記事で紹介したパートナー研究者に話を聞いてみたい、自身がパートナーとして登録したいなどあれば、下記ホームページよりお気軽にご連絡ください。
A-Co-Labo HP:https://www.a-co-labo.co.jp/

またnote『エコラボnote』では、これまでの事例やQ&Aなども掲載しています。ぜひご覧ください。
https://note.com/a_co_labo/

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