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A-Co-Labo研究者の履歴書

物理学の視座から人とコンピュータをつなぐ研究を続ける湯村翼

本シリーズ【A-Co-Labo研究者の履歴書】では、flaskoのサポーターであり、研究知のシェアリングサービスを行う株式会社A-Co-Laboに登録している多様なパートナー研究者たちが、自身の研究内容とともに、研究者としての歩みや考え方を伝えていきます。

今回は、境界が曖昧になりつつある物理空間とサイバー空間をつなぎ、人間とコンピュータとの新たなインタラクションの方法を研究する湯村翼さんです。

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湯村 翼

ゆむら つばさ

北海道情報大学 情報メディア学部 情報メディア学科 准教授。博士(情報科学)。北海道大学 理学部 地球科学科卒業、東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 修士課程修了。北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報科学専攻 博士後期課程 単位取得満期退学。株式会社東芝、クウジット株式会社、明治大学、情報通信研究機構での勤務を経て2021年より現職。

専門は情報科学で、人とコンピュータの新しいインタフェースや、物理空間センシングによるデータの収集と活用についての研究に従事。北海道大学 科学技術コミュニケーター養成プログラム(CoSTEP)修了。

物理空間✕サイバー空間✕人間のインタラクション研究

A-Co-Laboパートナー研究者の湯村翼です。北海道情報大学で研究室を主宰しています。専門は情報科学で、その中でもサイバー‐フィジカル‐ヒューマンインタラクション(Cyber-Physical-Human Interaction)という分野の研究をしています。

この分野名は私が作った造語なので、ほとんどの方は聞いたことがないかと思います。どういう研究かと言いますと、物理空間とサイバー空間と人間のインタラクションを統合的に取り扱う研究です。さらに具体的に言いますと、コンピュータの新しいインタフェースを作る研究や、コンピュータで処理するために物理空間のセンシングを行う研究などをしています。一般的にはユビキタスコンピューティングやヒューマンコンピュータインタラクションと呼ばれる分野です。

他の研究分野の方には信じがたいかもしれませんが、この分野の研究サイクルは非常に早く、短いものでは半年〜1年程度で研究をまとめ、次々とテーマを移していくという研究スタイルが一般的です。

私が最近行っている研究は、熱を用いた2次元情報マーカの開発です。QRコードやARマーカなどの2次元情報マーカは、通常は紙に印刷されたものなどを可視光カメラで読み取りますが、それを熱赤外線に置き換えることで、周囲のプライバシー保護や非侵襲的デザインを実現します。

以前は、寝ている時間を有効活用するために睡眠中にプレイするゲームや、キー押下時に映像エフェクトが付与されるキーボードなどの研究を行っていました。

熱を用いた情報マーカの研究

物理学から情報科学の道へ

私が研究者になったのは、これという大きなきっかけは特になく、わりとなりゆきでした。

高校生の時に物理現象を単純な数式の組み合わせで表現できる物理学に惹かれ、大学では物理学の道に進みました。この頃は物理学の研究者になりたいと漠然と思っていました。学部〜修士課程は理学部にて地球物理学を専攻し、宇宙プラズマのシミュレーション研究を行っていました。修士課程での所属研究室は相模原のJAXA宇宙科学研究所にあり、JAXAの恵まれた環境で2年間研究をしていました。

修士課程で在籍したJAXA宇宙科学研究所

しかし、そのまま博士課程へ進学はせず、修士課程修了後に民間企業に就職しました。もともと興味があった素粒子物理学や量子力学といった理論物理系の内容に難しすぎてついていけなかったことや、民間企業で働くことへの興味が高かったことが主な理由です。

就職先は電機メーカーの研究所で、配属されたのがネットワーク系の研究室でした。そこから情報科学の道を進むことになります。

企業での研究はやりがいもあり、働きやすい環境でした。一方、研究対象が事業に関連するものに限られるという企業研究所特有の制約に、多少の不自由さも感じていました。もっと自由に研究したいと思ってアカデミアでの研究に興味を持ち、社会人学生として働きながら情報科学の大学院博士課程に入学しました。

その後、転職や起業などの紆余曲折を経た後、研究に専念したいという思いから情報通信研究機構(NICT)という国の研究機関に就職して研究を行いました。2021年からは北海道情報大学で研究室を主宰しています。

民間企業での非研究職も経験しましたが、人類未踏の真理を探求し、思考やビジョンを後世に残すことのできる研究という活動に惹かれ、研究の世界に戻ってきました。企業研究所や国の研究機関を経た上で、研究の場として大学を選んだのには、いくつかの理由があります。

まず、研究テーマの自由度が高いことが挙げられます。そして、この先に取り組みたい研究テーマが非常に多く、自分一人で着手するには限界があるため、研究室としてチーム戦で研究を進めていきたかったこともあります。大学は教育機関ですので、未来を担う若者を育てる一助になりたいという思いも大きいです。

物理空間とサイバー空間の境界をつなぐ

現在は情報科学が専門ですが、上述の通り、もともとの興味とバックグラウンドは物理学にありました。ですので、情報科学の視点から物理学を捉えることをやりたいと思い、Cyber-Physical-Human Interactionの研究を行っています。

コンピューターを操作する際には、必ず物理現象が介在します。例えば、現在コンピュータの操作にはキーボードを使用します。キーボードは、キーの押下により電気の流れが変化します。その変化に応じて電気信号を生成し、コンピューターへ伝達します。

コンピュータの情報を表示する液晶ディスプレイでは、電圧をかけることによって液晶分子の配列の向きを変化させ、透過する光の波長が変わって人間が見る色が変わります。このように、人間とコンピュータの情報伝達には必ず物理現象が介在することに着目して研究を行っています。この研究の着想に至ったのは、博士論文として研究をまとめている時でした。

物理空間に付加情報や仮想オブジェクトを重畳表示する拡張現実(Augmented Reality:AR)は、スマートフォンの普及とともに目にする機会が増えています。また、サイバー空間上で物理空間を再現することはメタバースと呼ばれ、こちらも最近注目されています。

このように、物理空間とサイバー空間の境界は次第にあいまいになっていくと予想しています。これからの世界の発展がすごく楽しみです。

メタバースプラットフォームclusterで開催された
北海道情報大学 蒼天祭

情報科学✕他分野の掛け合わせを追求していきたい

Cyber-Physical-Human Interactionが扱う範囲は幅広く、また、私自身もいろいろなことに関心を持つ性格で興味の対象が広いので、やりたいことがとてもたくさんあります。情報科学は、他の研究分野との掛け合わせによってその価値を増すことが大きな特徴だと思っています。これまで取り組んできた物理学の他に、神経科学、文化人類学、音楽などを情報科学の視点から研究していきたいと考えています。

また、科学研究のあり方自体にも興味があります。これまでの科学研究の発展は、アカデミアの世界が大きな役割を担ってきました。しかし、既存のアカデミアの仕組みの多くは、インターネットが普及するよりも前に生まれたものです。現代においてはもっと多様な科学研究の方法があってよいのではないかと思います。

例えば、メイカー・フェア(Maker Faire)という、趣味として作った作品を見せあうものづくり展示イベントが世界中で開催されています。電子工作、ロボットなどさまざまな作品が展示され、その中には研究と言っても過言ではない専門家顔負けの作品も並んでいます。非職業研究者が行う研究活動は、シチズンサイエンスと呼ばれます。成果を発表したり議論したりするシチズンサイエンスのための場は、これからもっと増えていくのではないでしょうか。

今年度に大学に着任したばかりですので、研究室としての活動はまだ始まったばかりです。これから研究室の学生と一緒にいろんな研究を進めていきたいと思っています。


A-Co-Laboについて

株式会社A-Co-Laboには、現在約100名のパートナー研究者が登録。それら研究者の持つ研究知(研究者のもつ知識や知恵。研究内容だけでなく、課題発見能力や課題解決能力なども含む)を企業の研究開発はもちろん、新規事業や様々な課題の解決に役立てています。

記事で紹介したパートナー研究者に話を聞いてみたい、自身がパートナーとして登録したいなどあれば、下記ホームページよりお気軽にご連絡ください。
A-Co-Labo HP:https://www.a-co-labo.co.jp/

またnote『エコラボnote』では、これまでの事例やQ&Aなども掲載しています。ぜひご覧ください。
https://note.com/a_co_labo/

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