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A-Co-Labo研究者の履歴書

心理学の研究者として大学生のメンタルケアに寄り添う堀田亮

本シリーズ【A-Co-Labo研究者の履歴書】では、flaskoのサポーターであり、研究知のシェアリングサービスを行う株式会社A-Co-Laboに登録している多様なパートナー研究者たちが、自身の研究内容とともに、研究者としての歩みや考え方を伝えていきます。

今回は、心理学の研究者として大学生のメンタルヘルスについての研究を進めつつ、実際に学生に対して心理面でのサポート活動を行っている堀田 亮さんです。

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堀田 亮

ほりた りょう

1986年北海道生まれ。2014年筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻修了。博士(心理学)。同年より岐阜大学保健管理センター助教(現在に至る)。幼少期から現在に至るまで生活の中心はサッカー。だいたいの心理現象はサッカーに置き換えて説明できると思っている。好きなサッカー選手は「努力を見せないけど泥臭いプレーをするイケメン」。何事も「本気で楽しむ」ことがモットー。

A-Co-Laboパートナー研究者の堀田 亮です。いきなりですが、みなさんは心理学と聞いてどんなことをイメージするでしょうか?

たとえば「Aを選んだあなたは○○な性格ですね」といった心理テストを連想し、人の心を読む方法(読めるようになる方法)を学ぶ学問と考える人がいるかもしれません。もしくはカウンセラーになって人の悩みを解決してあげる方法を学ぶ学問と考える人もいるかもしれません。

でも、残念ながら学問・研究としての「心理学」はそういったものではありません。今回は、私の研究者としてのライフストーリーを紹介しながら、「心理学(心を研究すること)とは何たるか」を私なりの解釈でお伝えしたいと思います。

心理「学」との衝撃的な出会い

2005年の春、晴れて第一志望の大学に合格し、期待に胸躍る私に待ち受けていたのは、衝撃的な心理「学」との邂逅でした。

先生「今から心理学の講義を始めます。最初に見ていただくのはマウス(ネズミのこと)の性行動に関する実験の様子です」

……はて? 先生は何か授業科目を間違ってしまったんだろうか。心理学って、人の心に関する学問じゃないの? もしくはマウスさんという人の性行動の話? そんなこと授業で見せて大丈夫なの? それとも先生のジョーク?

淡々と説明する先生をよそに、混乱する私。その日の講義のことはよく覚えていません。しかし、その後も神経伝達物質、錯視、統計などなど、当時の私にとっては「心理学」という言葉にリンクしない講義が展開されていきました。

とは言え、大学生は単位を取らなければ卒業できません。その後、一応まじめに講義を聞き続けた私は、あることに気づきました。それは、心理学とは心を多様な視点や手法で捉える学問なのではないか、ということです。

同時に、心理学では人の心は「わかる」のではなく、「わからない」ことが前提の学問なのではないか、とも思い始めました。

答えのないことに応えることの面白さ

ある人間の心理現象を、時には動物実験の結果を応用して、時にはホルモンの分泌または人間の認知や知覚の傾向から、そして時には統計学的手法を用いて明らかにしようとしていることに気づいた瞬間、これまでは何のつながりもない無数の「点」でしかなかった心理学の講義が、「線」として結びつき、「面」として浮かび上がってきました。逆に言えば、心を理解する方法は幾通りもあるということに気づいたのです。そこに知的好奇心が揺さぶられ、私は心の研究者を志すことを決めました。

もうひとつ、心理学に魅力を感じた理由がありました。それは心には答えがないということです。どんなに素晴らしい研究をしたとしても、それは人の心の傾向や可能性の一端に応えたに過ぎません。だからこそ、カウンセリングでも悩める人に対してカウンセラーは答えを指し示すのではなく、悩める人を受け入れ、共に悩み、その人が自分なりの応えを見つけていけるように寄り添っていきます。

心はわからないという心理学の謙虚な姿勢に惹かれたこともありますし、何事にもひとつの答えを求めることに違和感があった私にとっては(1+1=2じゃないこともあるんじゃない?)、心理学はうってつけの学問だったのかもしれません。

そして大学院での学びと、大学教員としての経験を積み重ねていく中で、心を研究するとは何なのか、私なりの「応え」が見えてきたように思います。

木を見るから森も見えてくる

「木を見て森を見ず」という言葉をご存知でしょうか。小さいこと(木)に気を取られ、全体(森)を見通さないことのたとえとして用いられる言葉です。私はこの言葉の視点をちょっと変えて、心理学の研究では「木を見るから森も見えてくる」と考えるようになりました。

私が現在、特に力を入れて取り組んでいる2つの研究を紹介しながら、具体的に説明しましょう。

1つめは、大学生のメンタルヘルスのアセスメント方法に関する研究です。これまで、国際標準の指標である 「Counseling Center Assessment of Psychological Symptoms (CCAPS)」を翻訳し、日本人学生にも使えるようにしてきました(Horita et al., 2020)。現在ではWeb回答システムを開発し、回答者が自身の結果の即時フィードバックを受けられるとともに、得点の推移がグラフ化されて過去の自分の結果と比較できるような仕様となっています。このシステムを学生のカウンセリングで活用しており、個人(木)への支援に役立てています。

一方で、Webシステムを開発したことにより、学生のメンタルヘルスに関するビッグデータを取得できるようになりました。このデータを用いて、メンタルヘルスの性別や学年、学部、時期などによる違いも検討できるようになりました。さまざまなデータは研究への活用が期待できます。これからは大学生という集団(森)に対して、今どんな支援が求められているかを、データを活用して提言していきたいと考えています。

2つめは、障害のある学生に対する就労支援モデル構築に関する研究です。私は精神障害や発達障害のある学生に関わることが多いのですが、就職活動に難航する学生が一定数います。こうした学生(木)への支援を考えた時に、地域の支援機関とも連携しながら、彼・彼女らが望む進路の実現に向けて尽力してきました(堀田、2020)。

しかし、障害のある学生の支援を積み重ねていくと、だんだんと就職活動がうまく進まないのは、受け入れる社会側にも問題・改善点があるのではないかと考えるようになりました。そこで、現在では学生への支援と同時に、受け入れる企業や地域の支援機関とも連携しながら、障害への理解を深める取り組みや障害のある学生が仕事で力を発揮できる仕組みづくり(森)にも取り組んでいます。

どちらも私が実際にお会いする学生(木)が研究の出発点となっており、そこから集団や社会(森)へと発展しています。このように、心理学は個人が抱える問題点や課題を丁寧かつ丹念に扱うことで、より広い視点へと展開していきます。まさに「木を見るから森も見えてくる」のです。

自分らしい人生を送れるように寄り添いたい

私は現在、保健管理センターという大学の保健室のようなところで教員として働きながら、学生相談(カウンセリング)と研究に励んでいます。

私の願いは「ひとりでも多くの人が自分らしい人生を送れるようになること」です。ある人にとってそれは「悩みのない人生」かもしれませんが、「悩みを抱えても生きていける人生」と考える人もいるかもしれません。答えのない応えを求める人(木)に寄り添いながら、その人を取り巻く社会(森)もが、より良いものになっていくよう、これからも心の研究者としてのストーリーを紡いでいきたいと思っています。

文献
Horita, R., Kawamoto, A., Nishio, A., Sado, T., Locke, B. D., & Yamamoto, M. 2020 Development of the Counseling Center Assessment of Psychological Symptoms‐Japanese version: Pilot study. Clinical psychology & psychotherapy, 27, 97-105. doi: 10.1002/cpp.2412
堀田亮 2020 発達障害特性のある学生への地域連携就労支援:地方都市における試み 学生相談研究,41,95-106.

<A-Co-Laboについて>

株式会社A-Co-Laboには、現在約100名のパートナー研究者が登録。それら研究者の持つ研究知(研究者のもつ知識や知恵。研究内容だけでなく、課題発見能力や課題解決能力なども含む)を企業の研究開発はもちろん、新規事業や様々な課題の解決に役立てています。

記事で紹介したパートナー研究者に話を聞いてみたい、自身がパートナーとして登録したいなどあれば、下記ホームページよりお気軽にご連絡ください。
A-Co-Labo HP:https://www.a-co-labo.co.jp/

またnote『エコラボnote』では、これまでの事例やQ&Aなども掲載しています。ぜひご覧ください。
https://note.com/a_co_labo/

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