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A-Co-Labo研究者の履歴書

物理的視点で製品の不具合究明に挑んできた棚橋高成

本シリーズ【A-Co-Labo研究者の履歴書】では、flaskoのサポーターであり、研究知のシェアリングサービスを行う株式会社A-Co-Laboに登録している多様なパートナー研究者たちが、自身の研究内容とともに、研究者としての歩みや考え方を伝えていきます。

今回は、日本IBMやサムスン電子の企業内エンジニア兼研究者として数々の研究開発に携わってきた棚橋高成さんです。

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棚橋 高成

たなはし こうせい

日本アイ・ビー・エム株式会社(1987-2009)
サムスン電子株式会社(サムスンディスプレイ株式会社)韓国(2008-2014)
藤沢市生涯学習課学芸員(2015)
東京工科大学非常勤講師(2016-現在)

2つの大手IT企業でエンジニア兼研究者として活動

A-Co-Laboパートナー研究者の棚橋高成です。私は、日本IBMやサムスン電子といった企業内で30年以上にわたりエンジニア兼研究員として活動してきました。これまで取り扱ってきた製品は、プリンター、ノートPC、テレビからスマホまでの「液晶ディスプレイ」やOLED、HDD、そしてソニーのPS3に使われているCPUなどです。

IT企業内では、スピードが速く案件も数多く出てきますので、その場に応じて研究テーマが決まります。例えば、コンピューターシミュレーションによる設計・品質評価・基礎研究に関して、応力、振動、電場、磁場、流体、光学、熱などの実際の部品に発生するであろう物理現象を再現したり、機械物理系のトライボロジー分野で金属材料の原子レベルでの組成分析、五感の評価法で動作感触の自動測定法やディスプレイなどのムラの評価法なども開発してきました。液晶デバイスを用いたデジタルホログラフィーの研究、3Dディスプレイなども手がけたことがあります。

パソコン好きからIBMへ入ったけれど

修士までは、高エネルギー物理学研究所で、その当時(1986年)日本最高速のスーパーコンピューターを使って光の波動計算をしていました。またパソコンが大好きで、ぜひコンピューターに携わる仕事をしたいと思っていました。そこで日本IBMに入ったのですが、そこで担当させられたのが、プリンターの機械設計でした。かなり予想とはズレてしまいました。

1986年 高エネルギー物理学研究所スーパーコンピューターの前で

物理出身だった私は製図すら書けない状態でしたので、即戦力にはなりません。そこで上司から、当時実用化され始めたCAE(Computer Aided Engineering)の勉強を命じられ、設計に適用せよとの指示を受けました。

1980年代は造船や建築ではCAEを使っていて、IBMはCAE製品を売っていましたが、IT製品のような小さな部品への適用事例はありませんでした。IBMではその後、このCAEを初めてインパクトドットプリンター設計に適用することに成功し、当時最高速で動作する構造を作り出すことができ、いろいろな分野で注目を集めることになりました。

製品の問題解決のため大学院で研究

その後、世界初のTFT液晶搭載のA4ノートPC(ThinkPad700C)の開発にも携わりました。性能的には今のパソコンの1000分の1程度しかありませんでしたが、150万円もするのに世界で大ヒットしました。

ここで大きな問題が起きました。本体とディスプレイをつなぐヒンジ(必要なトルクで好きな角度で止めることができる部品)に破損が頻発してしまったのです。調べてみると、あるところでトルクが急上昇してしまうことがわかりました。いろいろ分析を試みたのですが、誰も原因がわかりません。部品も不良ではないし、製品評価試験にもパスしています。これは、トライボロジー的に究明しないと、今後の製品に影響することが明白でした。

そこで私は会社に提案し、大学院の博士課程で研究することとなりました。そして金属の挙動を原子レベルまで解析することにより原因を突き止め、製品に適用することにより、品質の良い製品開発が可能になったのです。

私はこの研究により、会社員でありながら博士(工学)の学位を授与され、研究者としての幅をさらに広げることができました。

1994年 ThainkPad初号機 日本で開発製造し世界でヒット商品となった

不具合原因の究明に感じる面白さとやりがい

製品開発をすると、いろいろな不具合が発見されます。それを物理的視点で不具合の原因を究明することは、とても面白いしやりがいがあります。

そのための武器も必要です。まずは「観察」です。光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などで観察します。また、測定できないものは、独自に装置を開発しました。ディスプレイ・ムラ測定器、トルク感触測定器、堆積異物測定装置など、特許を取ったものもあります。

こうしていろいろな視点から観察していくと、やがて不具合の発生原因が推定されてきます。そうしたら、その原因が再現できる方法を考えます。実物で再現しにくい場合は、CAEを使ってシミュレーションします。そして不具合が再現出来たら、それを引き起こさない方法を考え、具体的な改善につなげていきます。

例えばディスプレイが割れた場合は、何が原因かを追究するために、実際いろいろな方法で破壊してみて、不具合と同じ割れになるかを検証していきます。ハイスピードカメラなどを使って映像を撮ると、まるで芸術作品のような割れ方をしていて、思わず美しいなぁと思ったこともありました。

面白さの追求が本質を見極める目を養う

IBM基礎研究所には、ノーベル賞受賞者が3人いました。そのような方は、自分の研究をとことんやることができますが、私のような一般の研究員では、クライアントの案件ごとにテーマが変わっていきますので、その都度勉強をしていかなければなりません。

例えばソニーのPS3のCPUはIBM製なのですが、放熱量が大きく、熱により基板が破損するという問題を究明し、解決したりもしました。そこで研究成果が出れば、できるだけ外部の学会等で発表したり、特許申請をしたりします。基礎研究として、今までにない放熱方法を考案し、具現化していきます。すぐには製品化に結び付かないようなものでも、粘り強く研究する姿勢が必要と思ってます。

その後、サムスンに転職し韓国に渡りました。最初は3Dディスプレイの開発を任されたのですが、品質組織の体をなしてないことがわかり、社長に提言し、新しい品質組織を立ち上げました。その後、製造組織のテコ入れをする革新組織も立ち上げ、そのたびに社長賞をいただきました。

これまでに自分では思ってもない方向に流されてきましたが、流れに乗り、そこから面白さを追求する姿勢で望むことで、より良い経験をさせてもらったと思っています。それにより問題の本質を見極める目が養われてきたと思っています。

2014年 韓国アサン市 会社の前で 革新グループメンバーとともに

教育者として未来の技術者研究者を育てたい

現在は大学で、3D機械設計製図と地域連携課題という二つの授業を持っています。とくに地域連携課題では、その地域の問題を明確にし、問題解決する方法を学生に考えてもらっています。そして技術者として必要なプレゼンテーション技術と、論文執筆技術を習得してもらいます。つまり4C(Critical thinking, Collaboraion, Communication, Creativity)を養ってもらうということです。

未来の技術者研究者を育てる仕事にも、自分の経験を生かせると思っています。需要があれば、本の執筆や技術講演、各企業の問題解決をする顧問的役割を担っていければと思っています。


A-Co-Laboについて

株式会社A-Co-Laboには、現在約100名のパートナー研究者が登録。それら研究者の持つ研究知(研究者のもつ知識や知恵。研究内容だけでなく、課題発見能力や課題解決能力なども含む)を企業の研究開発はもちろん、新規事業や様々な課題の解決に役立てています。

記事で紹介したパートナー研究者に話を聞いてみたい、自身がパートナーとして登録したいなどあれば、下記ホームページよりお気軽にご連絡ください。
A-Co-Labo HP:https://www.a-co-labo.co.jp/

またnote『エコラボnote』では、これまでの事例やQ&Aなども掲載しています。ぜひご覧ください。
https://note.com/a_co_labo/

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