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人知を超えるAIと超えられないAI、その決定的な違いとは?

2016年、囲碁AIであるAlphaGoが世界トップクラスのプロ棋士に勝利したことで、世界中に衝撃が走った。これを受けて、ビジネス領域においてもAIを活用して人間を超える成果を生み出そうという試みが行われてきた。しかし現実的には、AlphaGoのように「人知を超えるAI」を作り出すことは容易ではない。ここを見誤り、「AIを使えばビジネスを成功させられる!」と単純に考えてしまうのは非常に危険である。

そこで今回のコラムでは、AIが人知を超える、つまりAIの能力を最大限発揮できるのはどのようなケースなのか、その条件や判断基準について、農業AI研究者でもあるflasko編集部の私(菊池)から解説してみたい。

AIへの過度な期待という罠

「ビッグデータ」と「機械学習」の活用により、現在まで盛り上がりを見せている第三次人工知能(AI)ブーム。最近でこそ「AIだからといってなんでもできるわけではない」「いいAIを作るためにはデータの質が重要」という認識がそこそこ広がってきているが、私が現在の所属企業にデータサイエンティストとして入社した2015年頃はと言うと、それはもうはちゃめちゃな状況だった。

ひとことで言うと、「AIに対する過度な期待」が蔓延していたのだ。「AIというのがすごいらしい」「AIを使えば、人間では発見できていなかった全く新しい知見が得られるらしい」「とにかくAIを使って何かすごいことをやりたい」などなど。

その傾向に、DeepMind社が開発したAlphaGoが拍車をかけた。当時、世界トップクラスの棋士であるイ・セドルを、ディープラーニングを搭載したAIであるAlphaGoが破った。これは世間に大きな衝撃を与えた。そしてこのAlphaGoのケースをイメージしながら、「人工知能を使って、人間(=社員・作業員・職人など)を超える成果を生み出したい」と考える人が増えていったのだ。実際に私も「AlphaGoすごいよね、うちもああいうのがやりたいなぁ」といったことを何度か言われた。

しかし「人間(人知)を超えられるAI」と「超えられないAI」の間には、明確な違いがある。その点を見落としていると、AIが(過度な)期待通りの結果を出せず、結果としてビジネスでの活用もうまくいかない。

では、その違いとは一体なんなのか?

「人知を超えるAI」が実現できる課題の特徴とは

AlphaGoが類まれな成果を挙げられたのはなぜか。その理由に関する解説は、世の中にすでにたくさん存在している。例えばAlphaGoの強さの秘密について詳しく知りたい方は、ぜひ以下の記事を読んでほしい
↓↓↓
深層強化学習とは? AlphaGo(アルファ碁)の仕組み(ビジネス+IT)

そこで本稿では、「AlphaGoのように人知を超えられるケース」と「超えられないケース」を見極めるためのポイントに焦点を絞って解説したい。

ズバリ私が考える「人知を超えるAIが実現できるか、そうでないかの見極めポイント」は以下の2つだ。

その①: そのAIで解こうとしているタスク(課題)は(時間を無限にかければ)人間が解決可能なものか?
その②:そのタスク(課題)を人間が限られた時間で解くことは現実的に不可能か?

AlphaGo、というよりも「AlphaGoが解こうとしている囲碁という競技(課題)」は、これらの2つポイントを満たしている。まず、囲碁における各盤面での最善手は、無限の時間をかけて全てのパターンの展開をシミュレーションすれば、人間でも導き出せると考えられる(つまり条件1を満たす)。そして、囲碁という競技のルール上、限られた時間の中で次の手を考えていかなければならず、常に最善手を選択し続けることは人間には不可能である(つまり条件2を満たす)。

AlphaGoは「人間が最適な手を導き出すための試行プロセスを模倣しつつ、コンピューティングリソースを使って膨大なパターンの試行を行えるが故に、人間では導き出せない最善手を発見できるようになった」と言えるのだ。

ここで重要なのは、「AIが人知を超えられるか」の判断ポイントはAIそれ自身にはなく、「AIでどんな課題を解こうとしているのか?」という点にある、ということなのだ。

人間に解けない課題は、AIにも解けない

上の1つ目の見極めポイントで言わんとすることは、「人間が時間をかけても解けない問題は、AIにも解けない」ということだ。AIを実現する基盤技術である「機械学習」は、出力である判断結果(囲碁の最善手予測、需要予測、最適制御など)とその根拠となるデータの関係性を数式に落とし込む技術だ。必要な情報が不足していれば、人間は正確な判断を行うことができないが、その点はAIも同じだ。人間がどんなに時間をかけても解けない問題は、AIにも解くことができないのだ。

2つ目のポイントでは、「AIが人知を超えたように見える瞬間」というのは、「AI(=コンピューター)が膨大な情報量を処理して、人間では到達し得ないような結論を瞬時に導き出した時である」ということを主張している。それは例えば 142942 x 4928482 ÷ 48272 のような複雑な四則演算の答えを、計算機が「14594114.0629」と一瞬で導き出すのと同じようなことと考えると、イメージが沸きやすいだろう。

もちろん一般的にAIと呼ばれるシステムの裏側では、単純な四則演算よりももっと複雑な計算が行われている。囲碁であれば盤面の状況に応じた最善手のシミュレーション、顔認証であれば対象者の顔の特徴の検出・数値化とデータベース情報との照合、などだ。どちらも人間が無限の時間をかければ正解を導き出せる問題ではあるが、現実的な時間で解くことは困難だ。

結局のところ「人工知能が人間を超えられるかどうか」は、対象とする課題を解くために人間では処理しきれない膨大なデータの処理が必要かどうか(つまり課題の性質)にかかっているわけだ。

こんな課題はAIも人知を”超えられない”

一方で、「人間を超えられないAI」もとい「AIが人知を超えられない課題」の見極めポイントは以下の3つに集約できる。

その①:どんなに時間をかけても、人間が解けない課題である。
その②:慣れた人であれば比較的短時間で解けてしまう課題である。
その③:課題を解くために、現実世界への介入が必要である。

①と②は前述した「AIが人間を超えられる課題」の逆を言っているだけだが、その他に考慮すべき点として③を追加しておいた。「現実世界への介入」とは、例えば「キャンペーンを打って顧客の反応を見る」「素材の合成時の反応条件を変えてみる」など、何らかのアクションを取って得られた結果を課題解決(前述の例では広告出稿や反応条件の最適化)に生かすことを指している。

これは厳密には「人間を超えられない理由」ではなく、「人間を超えるために必要な時間が膨大になってしまう理由」だ。AlphaGoは、コンピューター上で数えきれない数の囲碁をプレイ(シミュレーション)することによって、最善手を導き出すための数式を学習する。実は、広告出稿や反応条件の最適化も、AIに現実世界での試行(介入実験)を許せば、原理的にはAlphaGoのような人知を超えるAIを作り出すことが可能だ。しかし実際に上記のような試行を行うための費用や人手を考えると、それは現実的ではないと言える。

AIの利用検討には正しい期待値を持って

以上、今回のコラムでは「AIが人知を超えるためには、それに適した課題設定を行うことが必要である」ということを解説してきた。AIを使って新しいビジネスやサービスを立ち上げたいという人はたくさんいるだろう。でも、ぜひAIに対する正しい期待値を持った上で、その活用を検討いただくことをおすすめしたい。

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さて、これは余談だが、AlphaGoを動かすためのスーパーコンピューターがイ・セドルとの対戦で消費していた電力は、25万ワットにものぼった。では人間の脳の消費電力は?――正解は20ワットだ。その差はなんと1万2500倍にもなる。

この圧倒的な消費エネルギー差でスーパーコンピューターと同等に渡り合える人間の脳は、エネルギー効率の観点においては「AIを遥かに超えている」とも言えるのかもしれない。

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