髙木志郎|機械の言語獲得を研究し「人工研究者」作りをめざす
本シリーズ【A-Co-Labo研究者の履歴書】では、flaskoのサポーターであり、研究知のシェアリングサービスを行う株式会社A-Co-Laboに登録している多様なパートナー研究者たちが、自身の研究内容とともに、研究者としての歩みや考え方を伝えていきます。
今回は、機械の言語獲得を研究し、人工研究者作りをめざしている髙木志郎さんです。
髙木 志郎
Takagi shiro
2018年3月 慶應義塾大学経済学部卒業(国際政治学,実験心理学)
2020年3月 東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学部修士課程修了(機械学習)
2021年4月 個人事業主として開業
研究目標は「人工研究者」を作ること
はじめまして、A-Co-Laboパートナー研究者の髙木志郎です。私は東京大学大学院の博士課程を中退し、現在は個人で研究を行っています。
私が研究で目指していることは「人工研究者」を作ることです。近年,人工知能が様々な大きな成果を残していますが,人工知能と人間の間にはまだまだ大きなギャップがあります。「研究を遂行するための能力」もこのようなギャップの一つで,私はどのようにすれば人工知能がこの能力を獲得できるのかに関心をもって研究をしています。
研究をする上では「言語を使った思考」を行えることが重要です。言語を操る能力は,人間を他の生物と分け隔ている重要な能力でもあります。私は現在「どのようにすれば機械が言語を獲得できるのか」に興味を持っており,とくに「機械に言語とこの世界との対応を学習させるにはどうすればいいのか」という問題に取り組んでいます。これは言語を使ってこの世界について考えるための重要なステップで,多くの研究者が取り組んでいます。
言語を獲得するために重要な能力は,研究において重要な「仮説を立てる能力」とも関係しているのではないかと私は考えており,この問題はその意味でも重要な問題であると考えています。
認知科学という分野では,「言語を獲得する上では人間がもっているある種のバイアス(偏り)が重要なのではないか」ということが指摘されており,実際に乳児や動物を対象にしてこの説を裏付けるような実験結果が報告されています。認知科学者たちはこのバイアスが仮説を立てる能力とも関係しているのではないかということを指摘しているのですが,私はこの考えは人工知能による計算機上での言語獲得を考える上でも重要なアイデアのではないかと考えています。そのため,目下この仮説を検証するための研究に取り組んでいます。
未知を解き明かす研究者への憧れ
私は特定の現象に関心があったというよりも,研究やそれをする人自体に憧れを持っていました。誰も知らなかったことを明らかにするというのがすごくかっこいいと思っていましたし,自分の日常の常識を超えたことについて議論している研究者の姿を見て「この人達が見ている景色を見てみたい」と強く思うようになりました。そんな気持ちを抱いていたので,学部生のときに「自分は何に対してなら人生を捧げられるか,死ぬときにどういう生き方をしていたら後悔しないか」ということを深く考え,そして研究の道に進もうと決断しました。
研究を少し初めてみて,研究の道への憧れはより強くなりました。新しい現象に対して世界中の人たちが「こうなんじゃないか」と意見を出し,全然見えなかった現象の姿が少しずつ見えてくるのはすごくワクワクします。すごく面白い発想や強い思いがこもった論文を日々読むのもすごく楽しいです。研究には成果を世界に共有するという文化があるんですが,国境を超えて謎の解明を目指していく様子,その中で最初に大きな突破口を開こうとしのぎを削る様子はすごくエキサイティングです。研究をしていくなかで「この中のひとりとして貢献していきたい」という気持ちがより強くなっていきました。
独立した立場で納得感ある研究をしたい
冒頭で申し上げたように,私は今大学から離れて個人で研究をおこなっていますが,このように独立した立場で研究しているのには,いくつか理由があります。
まず「何がどうなっても研究していくため」というのが一つ目の理由です。私のいる分野は社会的にもアカデミアにもニーズがあるので良いですが,一般にアカデミアは就職が厳しいことで知られています。ポストはその当時の景気や社会状況,大学の状態にも依存しますし,自分が本当にやりたい研究がポストとして求められるとも限りません。
私は周りの世界がどうなろうと自分がどうなろうと自分がしたい研究をしたいと思っています。そのために生きていく力をつけようと考えたときに,自分で自分の生活を賄う力をつけるのは重要だと考えました。そこで一回個人事業主になってみよう思い、今のような独立した生き方につながっています。
次に,自分なりの納得感をもって研究がしたかったからという理由があります。自分が大学院生として研究をしているときに、研究環境に対して色々と疑問に思うことがありました。しかし,自分がまさにその環境に支えられながら,環境がおかしいと言っていることに,個人的には気持ち悪さを感じていました。ですので,自分の気持ちに正直でいるためにも、思い切って外にでてみようと思ったのが一つのきっかけです。
また,誤解を恐れず言うと私は社会のために研究をしようという意識は持っていなくて,自分が興味があることをただ追求していきたいと考えています。そう思ったときに,そんな自分の研究が税金で支えられているということには違和感があり,「税金に依らずに研究できるようになろう」と思って今の立場になることにしました。
他の方に迷惑をかけずに新しい研究のやりかたを色々と試していきたいから,というのも独立した立場で研究を進めている一つの理由です。例えば,私は研究過程をすべてGitHub(ギットハブ、ソフトウェア開発者御用達のプログラム管理プラットフォーム)上で管理したら良いんじゃないかなと思っています。もちろんそうなると(僕はもちろん良いんですが)共同研究者が良いと思うかわからないですし,そもそも組織として認めるのが難しい場合もあると思います。でも独立した立場になれば,そういう制約を意識せずに,この立場だからこそできるいろんな方法を試せるんじゃないかと思っています。研究の進め方についてのチャレンジは,今後も色々と行っていきたいと考えてます。
最後に,独立した立場でも研究できることを示していきたいからという理由もあります。もっといろんな立場の人が研究に携われたら,アカデミアにとってもそれ以外にとっても良いんじゃないかと個人的に思っています。例えば,色んな事情でアカデミアを離れざるを得なかった人もいらっしゃると思います。もし独立した立場で研究して成果を出している人を見て,そういった人達に「研究またやってみようかな」と思ってもらえたら嬉しいなという気持ちがあります。
研究成果をきっちり発信していきたい
長期的には,一生研究をしていきたいと思っていますが、短期的には,まずは成果を出していきたいです。「独立して研究してる」と聞くと,「怪しい人かな」とちょっと身構えるのが自然な反応かなと思っています(笑)。ですので,「ちゃんとした研究をしているんだな」というのを研究者の方たちに認めてもらえるように尽力したいです。今の所皆さんに認めてもらえるような成果もなく,このままだと口だけの人になってしまいますので,ちゃんと研究をしていることを結果で示していきたいです。
研究の方法も色々試したいことはあるものの,まだやりたいことが全然できていないのが現状です。なので,もっとガッツリと研究を進めていろんなプロトタイプを発信していける様になりたいなと思っています。 研究成果がでてないので,これまで対外発信は少しためらっていた部分があったのですが,やっぱりやっていかないといけないなと思っていたところでした。ですので今回このような機会をいただけて大変ありがたいです。もし面白いなと思ってくださった方がいらっしゃったらぜひご連絡いただけると嬉しいです! 色々お話しましょう!
A-Co-Laboについて
株式会社A-Co-Laboには、現在約100名のパートナー研究者が登録。それら研究者の持つ研究知(研究者のもつ知識や知恵。研究内容だけでなく、課題発見能力や課題解決能力なども含む)を企業の研究開発はもちろん、新規事業や様々な課題の解決に役立てています。
記事で紹介したパートナー研究者に話を聞いてみたい、自身がパートナーとして登録したいなどあれば、下記ホームページよりお気軽にご連絡ください。
A-Co-Labo HP:https://www.a-co-labo.co.jp/
またnote『エコラボnote』では、これまでの事例やQ&Aなども掲載しています。ぜひご覧ください。
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